自費出版と文豪
「自費出版」という言葉が世に出て久しくなります。
自分の作品を本にして「出版」することは、もはや誰にでもできることになりました。
意外に思われるかもしれませんが、著名な文豪と呼ばれる人たちの多くも自費出版で本を作っています。
その事情は様々ですが、自費出版に至るエピソードからは、文豪達の「自分の作品をどうにかして世に出したい」という、熱い情熱が感じられます。
それらのなかから何冊かをご紹介させていただきます。
『黒 潮』 徳冨 蘆花(1868~1927)
兄の徳富蘇峰が経営する民友社の記者をするかたわら、小説『不如帰』や随筆小品集『自然と人生』を発表して作家的地位を確立しました。
その後、思想的な違いから民友社を去り『黒潮』を自費出版しました。
巻頭には兄との決別を告げる「告別の辞」を掲げられており、当時の決意が偲ばれます。
『破 戒』 島崎 藤村(1872~1943)
詩人として出発した島崎藤村ですが、その後小説家に転身しました。
小説家として初の作品を出版するにあたり、以前の出版社に対する苦い経験から自費出版を決意しました。
親戚や友人に借金して集めた610円(当時)を資金にして自費出版された処女小説『破戒」は、夏目漱石や島村抱月に絶賛され、たちまち初版千五百部を完売したそうです。
島崎藤村はこの他にも『春』と『家』の二作品を自費出版で発表しています。
『注文の多い料理店』 宮沢 賢治(1896~1933)
第一童話集にして、生前唯一の童話集の本書は、自費出版により28歳の時に発表されました。
1,000部印刷されましたが、当時は一部の詩人を除いてほとんど評価されませんでした。
死後にわかにその評価が高まり、現在ではこの童話集は日本児童文学を代表する一冊とされています。
(次回に続く)
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