エッセイを書いてみる その2 ―書き出しに一工夫
自分のエッセイを、より読み手を惹きつけるものに仕上げたい。
もしもそうお考えなら、導入部分の書き出しを工夫されることをお勧めします。
いくつかのパターンがありますので、少しご紹介しましょう。
自分の体験
具体的なエピソードから書き出す方法です。
「先日、〇〇と会った」とか「昔こういうことがあった」という書き出しです。
ここでご紹介した文例も、筆者自身の体験を書き出しにしています。
出来事をただ書くのではなく、できるだけ表現を工夫したいものです。
次のエッセイ3本は、冒頭で過去の体験を述べることで、読み手の興味を引く工夫がされています。
むかし、フランスに留学している頃、わかりもしないのに美術館によく行った。 (遠藤周作「一人を愛し続ける本」より) |
ほんとうに、どうしてこんなヘマをやったのだろう。おかしいのだが笑えない失敗をしてしまった。自分で自分を閉め出してしまったのだ。 (吉沢久子「私の気ままな老いじたく」より) |
コーヒーが終わり、ブランディの香りを楽しんでいる時、ウェイターが伝票を置きに来た。 (森瑤子「恋の放浪者」より) |
会話文
冒頭を会話で始める書き方です。
小中学校の作文コンクールでは、この書き方の優秀作品が数多く見られます。
ひょっとしたら作文の授業でこの書き方が奨励されているのかもしれません。
会話から始めると臨場感が生まれます。
読み手に興味を持たせる効果もあるため、小説やエッセイでは、この方法で始まる作品も多数あります。
「わたしはね、人魚なのよ」彼女はそういった。 (「トマト」藤原伊織) |
「サテ、と、あなたなに飲む?」 (女連れ/伊丹十三「女たちよ!」より) |
日常で自分が考えていることや、過去の出来事に対する自分の気持ちから書き出す方法で、このあとに具体的な事実や体験を述べることになります。
自分の過去をふりかえると、私は母をふくめていい女性に恵まれたものだと思う。 (遠藤周作「一人を愛し続ける本」より) |
お料理学校というのは、私にはどうも納得のいかない存在である。 (伊丹十三「女たちよ!」より) |
この書き出しは、一人称で書かれる私小説でもよく用いられます。
それほど、早い段階で読み手に感情移入させる効果があるといえます。
偉人やその道の専門家の言葉の引用や、伝聞から始める方法です。引用や伝聞で読者をひきつけて、本文で述べたい主題に展開していきます。
ジャクリーヌ・ケネディは、とても誉め上手だったという。 (鏡の中のあなたに/森瑤子「恋の放浪者」より) |
引用から本題を導き出すため例としては、次の文章が分かりやすいでしょう。
エイブラハム・リンカンは「人民の、人民による、人民のための政治」ということをいった。ルノーは、リンカン流にいうなら「フランス人の、フランス人による、フランス人のための車」ということになろうか。どうにもこうにも、こんなにフランス的な車は見たことがない。 (勇気/伊丹十三「女たちよ!」より) |
冒頭の引用は「フランス人の~」の言葉へ誘導する役割としてあります。
本題は「フランス人の車に対する考え方」であり、この考えに基づき車を作ったルノーの「勇気」です。
引用や伝聞の場合は、冒頭の引用からいかに本題へ展開するかが重要です。うまく展開させると洒落たエッセイに仕上げることができます。
北斗書房では、現在エッセイを題材にした公募を企画しております。奥深くも楽しいエッセイの世界。皆さんもぜひこの機会に、足を踏み入れてみられてはいかがでしょうか。
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