自分史いろいろ ― その2 小説風自分史

特徴

文学作品のジャンルに「私小説」という分野があります。
著者が直接に経験したことがらを素材にして書かれた小説を指し、日本の近代小説に見られます。
「私」小説とは呼びますが、文中の主人公は必ずしも「私」の一人称ではなく、三人称で表わされる場合もあります。
私小説の主人公は、著者を投影したものではありますが、本人自身ではありません。
多くの場合は、著者の経験や考えが反映された架空の人物として描かれます。
日本では私小説の歴史は古く、森鴎外・夏目漱石・島崎藤村・志賀直哉・谷崎潤一郎・川端康成などが私小説を手掛けています。
最近の作品では、映画化されたリリー・フランキーさんの『東京タワー』も、本人の体験に基づいた私小説といえます。
自分史づくりの手法にも「小説風に描く」という方法があります。
過去の出来事を「記録」として書くのではなく「物語」として描く方法です。
物語である以上、必要に応じて時系列順の入れ替えや登場人物の変更など、多少の脚色が入ることもありますが、「直接経験したことを素材にする」という原則からは外れないようにします。
事実に多少の脚色を交えて物語にする―これが小説風自分史です。

小説風自分史の実例
最近のことですが、北斗書房では私小説による追悼作品集が完成しました。

作品紹介はこちらです。

https://hokutoshobo.jp/book/book-author/%e5%8c%97%e7%81%98%e3%80%80%e8%91%b5/1027/

著者は既にお亡くなりなのですが、生前お書きになった小説を本にまとめるというものです。
詳しい内容は省きますが、著者の故郷である瀬戸内海に面した港町の出来事や情景を、そこに住む少年の眼で観たものとして描かれています。
主人公の少年は、著者の少年時代をモデルにした架空のキャラクターであり、立派な私小説といえます。

執筆のポイント
事実に基づき自分の歴史を語るのが自分史づくりの原理原則ですが、自分以外の人間を主人公にして私小説風に書くのでしたら、そこに多少の演出を交えることができます。
執筆する際のポイントは、出来事の羅列ではなく、そのときの情景や想いを表現することを心掛けて執筆されると良いでしょう
私小説に取り上げる題材を決めてプロット(あらすじ)を考え、パソコンに向かう前に、もう一度当時に想いを馳せてみます。
その時何を感じたのか、人々はどう思っていたのか。どのような風景だったのか。
当時体験した出来事とそこで生まれた喜怒哀楽の感情、それを小説の一場面として書き記します。

少しテクニックや内容の工夫が必要ですが、上手く仕上げると面白い作品になります。
自分の事として書くのが照れくさいと感じる方、腕に自信のある方にお勧めします。