【洛中徒然(4)】御火焚や霜うつくしき京の町 ―蕪村
京都の十一月は、多くの神社やお寺で「お火焚(おひたき)」の神事が行われることから、「火のお祭り月」とも呼ばれています。
お火焚とは、江戸時代から京都を中心に行われてきた神事です。その由来には諸説ありますが、宮中の重要行事である「新嘗祭」が民間に広まったものという説が有力です。参拝者が願い事を書いて奉納した「お火焚串(護摩木)」を境内に集めて組み上げ、ご神火で焚き上げすることにより、汚れや罪が祓われて願い事がかなうといわれています。
そのなかでも、特に伏見稲荷大社が有名です。稲の亡骸に見立てた稲わらを焚き、続いて数十万本のお火焚串を焚き上げます。春の稲荷祭を稲の誕生、冬のおひたきを稲の死と考え、穀神への奉謝と春の再生を祈るのです。
また、この祭は別名、鞴祭(ふいごまつり)、吹革祭(ふいこうまつり)ともいわれ、江戸期の文献には鍛冶屋が屋根の上から蜜柑を撒く様子が描かれています。
御火焚の行事は神社だけでなく一般の家庭でもおこなわれており、古くから京都の人は、「おひたきさん」「おしたきさん」と呼んで、 この神事を大切にしてきました。
火に関係した興味深い資料があります。平成二十七年度の火災件数は、京都市は二三二件、人口一万人当たりに換算すると一・六件になります(京都市消防局「京をまもる」より)。東京都は三・五件、大阪市は三・二件ですから、この数字がいかに少ないかがお分かりいただけると思います。
町家、マンションを問わず、台所には火除けの神様である愛宕山の「火廼要慎」のお札が貼られているのをご覧になられた方も多いでしょう。こんなところからも、神事に限らず京都の人が火に対して抱いている畏敬の念の表れとも言えるのではないでしょうか。